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佐賀地方裁判所 昭和35年(わ)342号 判決

被告人 相原宏治

昭八・四・一九生 工員

主文

被告人を

判示第一の罪につき懲役六月に

判示第二乃至第四の罪につき懲役一年に

各処する。

押収にかかる自動車運転免許証一通(昭和三十六年押第八号1)のうち偽造部分はこれを没収する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は

第一  (略)

第二、同年(編注。昭和三十五年)四月十三日午後零時頃、同町大字江津ヶ里の自宅において、行使の目的をもつて、前記窃取にかかる昭和三十四年六月二十六日付佐賀県公安委員会より島内正人宛交付された自動車運転免許証の第一葉目を水で湿らし、そのうち片面の同人の写真が貼付され、氏名島内正人、昭和十年一月二十八日生、本籍藤津郡嬉野町大字吉田皿屋丁三十七番地、住所小城郡牛津町大字牛津友田五百七十七番地と各記載されている部分の紙片を剥離して取除いたうえ、これに代え佐賀県公安委員会より被告人宛交付された原動機付自転車運転許可証(昭和三十六年押第八号2)の第一葉目を水に湿して、そのうち片面の被告人の写真が貼付され、氏名相原宏治、昭和八年四月十九日生、本籍小城郡小城町大字晴気二千六百十七、住所小城郡牛津町大字江津ヶ里と各記載されている部分の紙片を剥離し、これを前記運転免許証第一葉目の残りの片面の上に糊で張り合せ、以て佐賀県公安委員会の記名捺印ある右島内宛交付された自動車運転免許証を被告人宛に交付されたように偽造し、これを昭和三十五年十月十三日午前八時過頃佐賀市北川副町光法武藤勝二方前道路上において、折から被告人が惹起した交通事故に際し、佐賀警察署巡査部長佐々木幸成より運転免許証の呈示を求められるや、同人に対し真正に成立したもののように装い提出して行使し

第三、第四、(略)

たものである。

(確定裁判)

被告人は、昭和三十五年八月十九日小城簡易裁判所において、道路交通取締法違反罪により罰金千五百円に処せられ、右裁判は同年九月二十八日確定したが、以上の事実は被告人の当公廷における供述並びに検察事務官作成の前科調書によつてこれを認める。

(法令の適用)

法律に照すと、被告人の判示所為中、判示第一の窃盗の点は刑法第二百三十五条に該当するところ、右は前示確定裁判を受けた罪と同法第四十五条後段の併合罪であるから、同法第五十条により未だ裁判を経ない判示第一の窃盗罪につき処断することとし所定刑期の範囲内で被告人を懲役六月に処し、次に判示第二のうち、公文書偽造の点は同法第百五十五条第一項に、偽造公文書行使の点は同法第百五十八条第一項、第百五十五条第一項に、判示第三の業務上過失傷害の点は同法第二百十一条前段、罰金等臨時措置法第二条、第三条に、判示第四の道路交通取締法違反の点は道路交通法附則第十四条、道路交通取締法第七条第一項、第二項第二号、第九条第一項、第二十八条第一号、罰金等臨時措置法第二条に各該当するところ、業務上過失傷害罪については所定刑中禁錮刑を、道路交通取締法違反罪については所定刑中懲役刑を各選択し、判示第二の公文書偽造と同行使との間には手段結果の関係があるから刑法第五十四条第一項後段、第十条に則り犯情の重い公文書行使罪の刑に従い、以上は同法第四十五条前段の併合罪であるから、同法第四十七条本文、第十条に則り最も重い公文書行使罪の刑に、同法第四十七条但書の制限内で併合加重した刑期範囲内で被告人を懲役一年に処し、押収にかかる自動車運転免許証一通(昭和三十六年押第八号1)のうち、偽造部分は判示第二の公文書偽造罪により生じ、且つ、偽造公文書行使罪の用に供したものであつて、何人の所有をも許さないものであるから、同法第十九条第一項第三号、第二号、第二項によりこれを没収し、訴訟費用については刑事訴訟法第百八十一条第一項但書を適用して被告人に負担させないこととする。(なお、判示第二のうち、公文書偽造の犯行時と偽造公文書行使の犯行時との間に、前示確定裁判を経た罪が存在するが、当裁判所は右偽造と行使を右確定裁判の前後に二分して処断すべきではなく確定裁判後の(科刑上の)一罪として処断すべきものと考える。この点については、右偽造罪と同行使罪は刑法第五十四条第一項後段によつて科刑上は一罪として取扱われてはいるが、右両罪は元来各個独立の罪でそれぞれが一罪を構成しているものであるから、この中間に確定裁判が存するときは、もはや科刑上の一罪として扱うことはできず、偽造罪は確定裁判前のいわゆる余罪として処断し、行使罪についてはこれとは別に確定裁判後の罪として処断すべきであるとの考え方もあるが、右刑法第五十四条第一項後段にいわゆる「最モ重キ刑ヲ以テ処断ス」とは数罪といえども科刑上は一罪として取扱うべきことを規定したもので、これはその数行為に相互随伴の関係があるため本来の一罪に近い実質をもつことに着眼し、その故に処断上は本来の一罪と同じ取扱いをすべきものとされていると解せられるのである。そうだとすると、両行為の間に確定裁判があつたからといつてその処断にあたつてこれを二罪に分離すべき理由はなく、たとえ手段たる罪が確定判決を経た罪と同時裁判をうける可能性があつたとしても、これが現実化せず結果たる罪と共に同時に審判されることとなつた以上同法条の前記趣旨を尊重すべきであり、この限りにおいて右同時裁判の可能性という手続上の要請は後退してさしつかえなく、この理は本来一罪たる犯行の着手から結果の発生までの間に確定裁判のあつた場合と同一である。)

よつて主文のとおり判決する。

(裁判官 佐藤秀 野間礼二 橋本達彦)

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